ドナルド・トランプの危険な「気まぐれの戦争」フィナンシャルタイムズ 2026年3月3日

エドワード・ルース 米国担当編集長

この対決がどこへ向かうかを知っていると主張する者は虚勢を張っているだけ

強権的な指導者の問題は、彼らが簡単に心変わりしうることだ。

トランプ米大統領は2025年1月の就任演説において、もはや戦争をしかけない「平和の使者」になると約束した。ところが2月28日、イランの体制転覆を目指して最大級の戦いを開始した。

現実の情勢を踏まえれば、トランプはおそらくその目標を放棄せざるを得なくなるだろう。米連邦議会や米国の同盟各国は言うまでもなく、彼の閣僚たちでさえトランプがイランとの戦いをどのように決着させるつもりなのか知らされずにいる。

トランプは1月、米紙ニューヨーク・タイムズに自分を抑制する唯一のものは「自分の道徳観だけだ…それ以外に自分を止められるものはない」と語った。実際、今のところ米憲法制度のもとで彼を止める動きはない。しかし、拡大しつつある戦争の舞台で何が起きるのかは、また別の問題だ。

イスラエルによる先制攻撃はさておき、トランプの影響力が最大限に高まったのはイランとの戦争を選択した瞬間だった。それ以降、トランプは戦いを自分の思うように進めることはできなくなった。今やイランだけでなく、多くの人々が戦争の方向性に発言権を持っている。

トランプ自身も戦争の目的が定まっていない。攻撃開始から72時間の間に彼は、イランの核兵器開発計画の阻止やテロの輸出能力の根絶、現体制の打倒、取引できる新たな指導者をイラン国内に見つけることなど、様々な狙いを口にした。

その発言の多くは、電話で思いつきのように記者に語ったものだ。ある記者には戦争は「あと4~5週間」続くと述べ、別の記者にはイランと対話する用意があると語った。しかし、「対話できる相手が残っているのか」といった疑問も口にしている。

このようにトランプの戦争目的は万華鏡のように変わる。トランプの主張とは異なり、米国もその同盟各国もイランからの差し迫った脅威などには直面していなかった。イランを先制攻撃すべき理由は何もない。

トランプはイランが米国本土に到達するミサイルの開発に成功しそうだと主張していたが、そうした事実もない。ウィットコフ中東担当特使は数日前に「イランは産業レベルで爆弾を製造できるだけの物質をあと1週間で入手できる」と大げさな発言をしていた。

仲介役を務めているオマーンの当局も、イランの交渉団が譲歩を拒んでいたというトランプの主張を否定している。イランが2月下旬の交渉で示した低濃縮ウランの備蓄をゼロにするという提案は、オバマ政権が2015年の核合意(トランプは2018年に離脱)で得た条件よりも好ましいものだった。

トランプがイランの街頭でのさらなる虐殺を食い止められるかどうかについては、極めて懐疑的にならざるを得ない。彼はイラン国民に蜂起を促しているが、それが自殺行為にならないという保証はどこにもない。

体制を空から覆すなどということはできず、トランプが手助けしたいなら地上侵攻する以外に道はない。そして彼は今、その考えを初めて検討中だ。「地上部隊の投入について不安はない」と米紙ニューヨーク・ポストに語っている。

 同時に、トランプはイランの軍隊に武器の引き渡しを呼びかけている。イラン軍は、はるかかなたの銀河系でなら武装解除するかもしれないが、あり得ない話だ。とにかくこの惑星では、トランプの頭の中が霧のごとく不明なだけに、戦争の行く先も不明だ。

トランプを含め、この戦争がどこへ向かうかを知っていると主張する者がいれば、虚勢を張っているに過ぎない。考えられる様々な結末の中で、平和的な権力の移譲は最も可能性の低い展開の一つだ。

イラン政府は最近、数千人、おそらく数万人に上る市民を殺害している。残された政府の最高幹部らは追い詰められている。トランプは彼らに、この戦争はイランの現体制の存亡をかけた戦いだと通告している。にもかかわらずトランプは、イランが米軍基地を抱える湾岸諸国にドローンやミサイルを発射していることに驚きを示している。存亡の危機にあるイランの神権体制にとって、強力な反撃をするのは当然の選択だろう。

だからこそ湾岸地域の君主制国家は、どこもイランとの戦争を望んでいなかった。こうした国々の「世界経済の要」としての地位は今、危機にさらされている。トランプは湾岸諸国の友人たちの声に耳を貸さなかった。そればかりか米統合参謀本部のダン・ケイン議長が注意を促したリスク・シナリオにも耳を傾けなかった。

イランほどの規模の国家を遠隔操作で変革など、できるはずもない。

トランプは、イランがすぐに屈服すると考えていた。だが現在、その兆候は全くない。したがって今や持久力が試される局面に入りつつある。イランが攻撃型ドローン「シャヘド」を使った攻撃を継続できる期間が長くなるほど、米国人や他国の犠牲者が著しく増える可能性が高まる。

この戦争は、どちらがより長く耐えられるかという持久戦に変質する恐れがある。それは、イランのドローン生産能力と米国の迎撃能力の戦いだ。

紛争が長期化すれば、米国の財政にも悪影響が生じる。トランプを支持する「MAGA(米国を再び偉大に)」派の人々は、「終わりなき戦争」と所得が圧迫される時代にトランプが終止符を打ってくれると信じていた。

しかし、それは誤りだった。トランプは、フセイン政権を倒すため2003年にイラク侵攻に踏み切ったブッシュ・ジュニア大統領以上に大きな戦争をするという賭けに出たのだ。

イランの現体制について評価すべき点は何もない。しかし、トランプの意図を読み取る直感については、「もう戦争は仕掛けない」という約束を信じた米国の有権者よりも、イランの方がたけているようだ。(“Donald Trump’s dangerous ‘war of whim’ ”, ‘Anyone who claims to know where this conflict will go is bluffing’, Financial Times, March 3, 2026)

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