ジェリー・ドイル、ジェン・ジャドソン、
コートニー・マクブライド、ベッカ・ワッサー
予告なしに、圧倒的かつ阻止不能な戦力を投入する-。米軍によるイラン攻撃は、過去に成功してきた作戦と同様のスタートを切ったかのように見えた。
しかし、開戦から約2週間。米国は予想外の展開に直面している。
イランの軍事予算は、米バーモント州の域内総生産(GDP)を下回る規模にすぎない。それでも、イランは米国がこれまで直面したことのない水準のミサイルとドローン戦力を保有している。
米軍はイランの猛攻に対抗するため、高価で補充が難しい迎撃ミサイルの在庫を大幅に取り崩さざるを得なくなっている。国防総省はイランの攻撃が80%以上減少したとしているが、イランは依然として中東各地の重要な軍事施設やエネルギーインフラを日々攻撃している。原油価格を深刻な水準まで押し上げる戦略の一環だ。
アラブ首長国連邦(UAE)では世界有数の製油所近くへの攻撃により、10日に操業が停止した。対空ミサイルによる妨害で、米国はイラン上空の制空権をいまだに確立できていない。
「米国はこれまで、長距離精密攻撃で世界をリードしてきた。敵が同様の能力を備えた戦争は、今回が初めてだ」と、スティムソン・センターのケリー・グリエコ上級研究員は指摘する。「これまで経験したことのない負荷がシステムにかかっている」という。
イランは長年にわたりミサイルとドローンの備蓄を構築し、国内各地に分散・隠匿してきた。中国、ロシア、北朝鮮の設計や技術を取り入れて高度化した弾道ミサイルの一部は、米同盟国の防空網を突破している。また、低コストのシャヘド136型ドローンは、米国と同盟国に対し、本来はより高度な兵器を想定した防御システムの使用を余儀なくさせている。
バーレーンにある米海軍第5艦隊司令部は、複数の弾道ミサイルとシャヘドの攻撃を受けた。カタールの高価で希少な早期警戒レーダーは破壊され、米国が保有する最先端の地上配備型移動式ミサイル防衛システムである「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の3億ドル(約470億円)相当の砲台に付属するレーダーもヨルダンで損傷した。
「どちらの在庫が先に尽きるか」
「我々の在庫が枯渇するのが先か、イランのミサイル在庫が先に尽きるのかという競争だ」と、戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン氏は語った。
米当局はこの競争でイランが勝つことはないと強調する。しかし、イランの兵器が中東全域で住民や軍事基地、石油施設を脅かし続ける限り、ホワイトハウスへの政治的圧力は日増しに強まるのも現実だ。
原油価格が9日に4年ぶりの高値に急騰する中、トランプ大統領は戦争からの出口を模索している可能性を示唆し、金融市場に一定の安心感を与えた。しかし翌朝、ヘグセス国防長官は、これまでで最も激しい攻撃を実施していると述べた。
ヘグセス氏は「圧倒的な技術力と軍事力を示しつつ、敵を粉砕している」と述べ、「敵が完全かつ決定的に打ち負かされるまで手を緩めない」と強調した。
米国は今回の作戦費用の見積もりを公表していないが、最大500億ドルの追加資金について議会で協議が始まっている。ワシントン・ポスト紙は、戦争開始から最初の2日間だけで弾薬費が約56億ドルに上るとの国防総省の試算を報じた。双方のミサイル在庫に関する公開データは限られている。
トランプ氏は、米国の在庫は「望ましい水準にない」と述べている。6日には防衛産業幹部と会談し、生産拡大策を協議した。ただ、公式発表によれば、非公開の会合は既存計画の確認にとどまっており、実際の増産には数年を要する見通しだ。また政権は、戦費の補正予算を議会に正式に要請していない。
現在の強度で戦争が続けば、米国は補充困難なミサイルを、他の地域から転用せざるを得なくなる可能性がある。
韓国大統領は10日、米国が迎撃システムを撤収しているとの報道を受け、自国の防衛体制は強固だと当局者に説明した。なお、この報道内容は確認されていない。
オーストラリアはすでに、UAEに先進的な空対空ミサイルを供与すると表明。これは、シャヘド撃墜に有効だとされる。また、早期警戒を強化するためE-7Aウェッジテイル早期警戒機も派遣する。ウクライナも米軍のためにドローン防衛システムの提供を申し出ている。
イランの安価なドローン、高額ミサイルで撃墜
2月28日に米国とイスラエルの攻撃が始まった直後、イランは湾岸周辺の標的に300発超の弾道ミサイルを発射し、シャヘドという自爆ドローンも大量投入した。
開戦前、イランは射程数百キロから2000キロ超までの弾道ミサイルを約2500発保有していた。事情に詳しい関係者によれば、この在庫は数週間で尽きる可能性がある。
ただし、低コストで小型のシャヘドによる攻撃は長引く可能性がある。
シャヘドは一般的にドローンと呼ばれるが、小型で低速の巡航ミサイルだ。発射装置は簡易で、製造も容易だが、発見されれば撃墜されやすい。
プロペラなど単純な技術を用いた低コスト兵器でもあり、価格は2万-5万ドルと推計される。ウクライナがロシア攻撃に対して効果的に使用してきた高性能ロケット推進型パトリオットPAC-3は1発約400万ドルで、その差は歴然だ。イランがどれだけシャヘドの在庫を持っているかは、推計に幅があり定かではない。
米国などは電子戦、自動機関砲、レーザー、ヘリコプターなど、より安価な迎撃手段を開発しているが、こうしたシステムの配備数はまだ限られている。
その結果、多くのシャヘドがミサイルで撃墜されることになった。通常は、一つの目標に対しては複数のミサイルを使用するのが防空の原則だ。米国と湾岸諸国はPAC-3迎撃ミサイルだけで1000発超を消費した可能性が高い。これは年間生産量のほぼ2倍に相当する。
ウクライナによれば、これはロシア侵攻以降4年間で米国と同盟国がウクライナに供与した数量を上回るという。湾岸諸国が低コストドローンを撃墜するのにPAC-3を使用していることに、当局者らは驚きを示している。
米国は迎撃ミサイルの増産を進めているが、複雑な弾薬を製造する工場の能力には限界がある。PAC-3を製造するロッキード・マーチンは、2030年までに年間生産量を2000発超へ引き上げる計画だが、今年は約650発にとどまる見込みだ。
国防総省は、SM-6艦対空ミサイル最大10発の補充に9300万ドルを投じている。さらに、RTXの防衛部門レイセオンが製造する同ミサイルとSM-3迎撃ミサイルの年間生産を、96発から360発に増やすため2億2500万ドルを計上しているが、実現には数年を要する。
ミサイル調達は長年にわたり十分な予算が措置されてこなかった。また増産に必要な資金も、一部はまだ議会承認を得ていない。

米国、イラン作戦で高額ミサイルを使用
迎撃ミサイルの在庫減少に加え、イランの攻撃はレーダーなど指揮装置にも打撃を与えている。米国が世界で8基しか展開していないTHAADのレーダー1基が損傷した。ヨルダンでの被弾は実戦での初の損失だ。
「それは非常に高価で最先端のものだ」と、パシフィック・フォーラムの上級研究員ウィリアム・アルバーク氏はTHAADレーダーの重要性を語る。「中東だけを見ればそれほど懸念していないが、世界全体を見据えた能力という点では大きな打撃だ」という。
イランが日々の攻撃をどこまで継続できるかは不透明だ。
ミサイル発射装置が攻撃の被害を受けたことで、残りの弾道ミサイルの発射は困難になっている可能性が高い。イスラエル当局は、イランの発射装置の少なくとも3分の2を破壊したと述べている。
「イランは頻度は低いが、継続的なミサイル、特にドローン攻撃を続けるだろう」とジェームズ・マーティン不拡散研究センターのジェフリー・ルイス氏は言う。「その後、トランプ陣営は大きな選択を迫られる。地上戦に踏み切るのか、それとも勝利を宣言できる形で交渉による解決を目指すのかだ」と述べた。
まだ米国は制空権を確保できず
西側には存在しない別種のイラン製ミサイルも、米航空機に予想外の脅威を与えている。
イランの358地対空ミサイルは、小型で移動式の発射機を備える。高度2万5000フィートまでの目標を攻撃可能だが、赤外線誘導を用いるのが特徴だ。レーダーを使用しないため、航空機側には追尾の警告が出ず、ミサイルが発射されるまで察知できない。昨年のイエメン上空での作戦でも米軍機に脅威となった。
これが今回は、完全な制空権を米国が確保できない一因となっている。イラク戦争など過去の大規模な紛争で、米国が制空権を得てきたのとは対照的だ。
米当局によれば、イラン上空では米国が一部で「航空優勢」を確保しているにとどまる。これは敵に対する大きな優位を意味するが、自由に作戦を展開できる「制空権」には至っていない。
実際、イラン軍が依然として航空作戦に脅威を与えている。事情に詳しい関係者によると、開戦以降、米国は少なくとも無人機MQ-9リーパー7機を失った。ヘグセス氏は先週、米国とイスラエルは数日以内に制空権を確立できるとの見通しを示していた。
これまでのところ、イランの攻撃で米軍の航空機やヘリコプターが失われた例はない。ただし、クウェートでは米軍のF-15戦闘機のうち3機が、ミサイルにより誤って撃墜された。
戦争初期に制空権を確保できなかったため、米国は遠距離から発射可能な先進ミサイル、いわゆるスタンドオフ兵器の使用を増やした。これもまた、同盟国の在庫に負担をかけている。
開戦から最初の100時間で、トマホーク巡航ミサイルが数百発使用された可能性がある。これは、射程1000マイル超、数メートル単位の精度を持つミサイルだ。
こうした兵器は中国のような高度な敵との戦闘に不可欠であり、ステルス性の高いJASSM巡航ミサイルや、射程数百マイルの新型弾道兵器で今回初めて実戦使用された精密打撃ミサイル(PrSM)も同様だ。
こうした兵器は「需要が高いが、生産量が限られる」ものであり、常に生産能力の制約を抱えてきたと、第1次トランプ政権で国防総省の副会計監督官を務めたエレイン・マカスカー氏は指摘する。
トマホークの年間生産は100発未満で、イラン作戦で使用した分の補充には数年を要する可能性がある。
イランの防空網が弱体化するにつれ、米国はより低コストの近距離兵器も使い始めている。
精密誘導爆弾「JDAM」などの投下型爆弾は、1発数万ドルほど。巡航ミサイル1発100万ドル超と比べると、大幅に低価格だ。米国は、50万発超を保有していると推計される。
「米国はイランの痛みに耐える能力と、逆に痛みを与える能力を過小評価していたようだ」と、カーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ上級研究員は指摘する。「今後どのように展開するのか、依然として極めて大きな不確実性がある」と述べた。(“Iran’s Cheap, Plentiful Weaponry Puts US Military Under Strain”, By Gerry Doyle、Jen Judson、Courtney McBride、Becca Wasser, Bloomberg News March 11, 2026)



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