「思想運動」No.1124(2026/5/1)掲載
朝鮮大学校 李柄輝
朝鮮労働党の9回目となる大会が5年ぶりに開催された。2月19日から25日までの6日間に行われた朝鮮労働党第9回大会において、人事面では、抗日パルチザン2世で金正恩時代に最高人民会議常任委員長を務めた崔竜海政治局常務委員など、指導部の重鎮が退き世代交代が一気に進んだ。しかし、金正恩総書記が2日間にわたって行った事業報告などを見ると、政策面では党8回大会(2021年1月)からの連続性を帯びている。
自力更生路線の勝利
金正恩総書記は、大会の開会辞において「党第8回大会が招集された当時、わが革命の主客観的条件は、文字通り自らの存在を保つことすら困難なほど苛烈」であったと述べている。
党と国家の最高ポストに就いて以来、経済重視の姿勢を繰り返し示してきた金総書記であるが、2013年3月に「経済建設と核武力建設の並進路線」を採択し、急ピッチで進められた核・ミサイル開発も、米国の脅威を除去し経済建設に資する環境整備に向けた対米交渉のカードとしての意味合いを有していた。事実、米本土への核攻撃能力を示したとされる大陸間弾道ミサイル「火星―15型」の発射実験の成功(2017年11月29日)以後、朝鮮は対話路線へと舵を切り、史上初となる朝米首脳会談を実現させた。
しかしながら、2019年2月、ハノイにおける2回目の首脳会談が決裂し、米国の軍事的脅威と強度の経済制裁は継続した。朝鮮は自力更生を掲げ「正面突破」を図る戦略に打って出たが、その前途を阻むかのようにコロナパンデミックと自然災害が相次いで襲った。
1990年代の「苦難の行軍」に比肩する難局において、2021年1月の党8回大会は、国内の潜在力を最大限に引き出し、自力更生を担保する「主体的力量」、「内的動力」の強化を目指す方針を採択した。
朝鮮は、核を梃に対米交渉を通じて隘路を打開し、朝鮮戦争の終結や制裁の解除など経済建設の有利な環境を切り開こうとした従来の方針を転換し、党8回大会以後、「党と国家のすべての活動を自らの力を強化する方向へと志向」(党9回大会報道文)させる路線へと旋回した。
党9回大会では、過去5年間の自力更生路線の勝利を総括し、この軌道上において朝鮮社会主義を新たな段階へと発展させるべく向こう5年間の課題が示された。
社会主義全面的発展への道
「わが革命の前途と国家・人民の未来は、いっそう自信に満ち、明確なものとなった」(同上)。このような朝鮮の自信は、党8回大会で採択された国家経済発展5カ年計画の完遂によるものであろう。経済計画の完遂が宣言されたのは、1984年以来である。
では、過去5年間に朝鮮経済はどのように変化したのだろうか。金総書記は、開会辞で「国家の経済活動は数十年間続いてきた過渡的かつ臨時的な方式から抜け出せず」にいたと述べている。「苦難の行軍」時代、生産施設に対しても人々の消費生活に対しても、国家による供給が途絶し、生産現場や人々の暮らしも、自力で凌いでいくことを余儀なくされた。
このような状況において、国内の資源が、国家経済圏から「圏外」へと流出していった。
過去5年間、金総書記は、経済に対する国家のプレゼンスを回復させようと努めた。例えば、2021年9月の最高人民会議第14期第5回会議では、「人民経済計画法」が6年ぶりに改定されたが、経済計画に必要な労力・設備・資材・資金の確保や、計画および契約の遵守に関して、法的な監視と統制を検察機関が担うようになったのである。これは、内閣の指導が及ばない計画外の経済活動を統制し、経済資源を「圏外」から国家経済圏へと揺り戻す措置であった。さらに、同じ会議で採択された「市・郡発展法」によって、こうした資源を地方や農村など脆弱な部門へと還流させる仕組みが整えられた。
いまや、朝鮮経済は、内閣の指導により国内の生産施設が整備補強され、生産が正常化し、生産施設間の連携が復元されたことで、安定的な成長軌道に乗ったといえよう。このような基礎の上に、首都圏と地方、都市と農村の格差の是正と「新世紀教育革命」、「保健医療革命」の推進による社会主義施策の充実化を目指す社会主義全面的発展に向けて、党9回大会では、経済成長の安定化と漸進的質的発展を目標に新たな経済5カ年計画と一連の対策が打ち出された。
「力の均衡」論と多極化促進外交
社会主義全面的発展へと向かう朝鮮にとって、平和環境は必須の条件である。とりわけ1990年代以後、朝鮮外交の最優先課題は、平和体制の構築に向けた対米外交と、それに付随する北南・朝日関係の改善であった。しかし、党8回大会以後、自力更生路線が鮮明となる中で、朝鮮は「核の放棄」ではなく「非核化の放棄」を選択した。
2024年10月、金正恩総書記は国防総合大学における演説で「朝鮮半島における戦略的な力の均衡の破壊は、すなわち戦争を意味する」と述べ、。敵を抑制し情勢を管理しうる物理的力の保持こそが自衛的国防建設論理の核心であると強調した。軍事的一体化が進む米日韓の脅威に対して、核武力を軸とする国防力の強化によって、「力の均衡」を維持し、「平和」を担保する方針へと転換したのである。
こうした論理のもと、2023年9月の最高人民会議第14期第9回会議では「核保有」が憲法に明記され、西側の非核化要求は「憲法放棄を求める主権侵害」(2025年4月9日、金与正副部長談話)と位置付けられている。
米国に対しては、核保有国同士の軍縮交渉のみを受け入れる立場を示し、韓国に対しては「敵対的2国家論」を唱えている。
もはや、朝鮮はローカルステートとして自国の安全を追及する段階を超え、核保有国として中国・ロシアとの連帯を強化し、「正義に満ちた多極世界建設を力強くけん引する自主力量」(2024.12 朝鮮労働党中央委員会第8期第11回総会)の中心的地位から多極化促進外交を前面に打ち出している。党9回大会は、このような外交安保方針が改めて確認された。この変化を日本政府もくみ取り新たなアプローチが必要であろう。




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