ラリー・C・ジョンソン
元CIA諜報アナリスト
元米国務省対テロ局プランナー・顧問
ドナルド・トランプの肩を一つだけ持ってやるとしよう。彼は約束を守り、イラン船舶に対する米軍の海上封鎖を解除した。今やイランは、ペルシャ湾からホルムズ海峡を通過して出入りする自国の石油タンカーとともに、大々的に商売を再開して我が世の春を謳歌している。
これが意味するところは、19日にジュネーブで署名される予定のイランとの覚書(MOU)が今後も維持されることではないが、事態の沈静化に向けた一歩であることは間違いない。そこで我々が問うべきは、なぜドナルド・トランプは弱腰になり、イランが遥か前の4月の時点で提示していた提案をいま受け入れたのか、という点だ。
それにはいくつかの理由があると考えているが、最大の理由は米国が石油を使い果たしつつあることだ。つまり、トランプはもはやガソリン価格を人工的に抑制することができなくなっている。
CNNの報道によれば、米国の戦略石油備蓄(SPR)は1983年以来の最低水準にまで落ち込んでいる。この減少は、イランとの紛争による影響を緩和するために、備蓄の取り崩しを継続したことによるものだ。備蓄量は3億4030万バレルにまで減少したが、これはレーガン政権がまだ備蓄を積み増している最中だった当時以来の低水準である。2026年現在、米国の1日の石油消費量は2000万〜2100万バレルであり、これは現在の備蓄が「あと17日分」のガソリンしか供給できないことを意味する。その限界線は、7月1日にやってくる。
ドナルド・トランプは認知機能が低下しているかもしれないが、7月に石油不足が起き、ガソリン価格が急騰することは政治的に政権を維持できなくなるほどの致命傷になると理解できるだけの知性は、まだ辛うじて残っているようだ。
もう一つの要因は、ペルシャ湾の米軍施設や航空機が、先週地獄のような猛攻撃を受けたことだ。6月9日と10日に米国がホルムズ海峡のイラン施設に対して行った攻撃は、イラン側の猛烈な反撃を誘発した。その標的となったのは、イラク(クルド人を支援するCIA基地)、クウェート(アリ・アル・サレム空軍基地、クウェート北東部のキャンプ・ブーリング、およびシュアイバ民間港の近くに設置された仮設の作戦センター)、サウジアラビアの首都リヤドに隣接するプリンス・サウード空軍基地、そしてヨルダンのムワファク・アル・サルティ空軍基地である。これらの攻撃は壊滅的なものであったが、これにはイランに供給された中国製の新型ミサイルが使用されたと報じられている。
さらに、湾岸のアラブ諸国から「イランへの攻撃を終わらせろ」という強い圧力がかかったことにもある。中国、ロシア、パキスタンの後ろ盾を得たイランは、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)との間で、極めて精力的な外交を展開した。
これまでイランやサウジアラビアにとって目の上のタンコブであり、イスラエルの同盟国と目されてきたUAEは、6月9日に代表団をイランに派遣した。ロイター通信は、UAEがイランのために数十億ドルを凍結解除することに同意したと報じた。地域の2つの情報筋はその額を100億ドル(すでに引き渡された30億ドル以上を含む)とし、別の2つの情報筋は200億ドルに達するとした。この資金は、イランがUAEへの攻撃を停止することと引き換えに合意されたという。しかし、UAE外務省はこの報道を断固として否定し、これらの主張は「完全に虚偽であり根拠がない」、「UAEを通じて凍結されたイランの資金が解除、送金、あるいは仲介された事実は一切ない」と発表した。ただ、論争の余地のない事実として、UAEのハイレベル代表団がイラン政府と会談するために現地へ飛んだことは確かだ。
また、カタールのハイレベル代表団が6月10日(水)にテヘランに到着し、二国間関係、地域情勢、そしてイランと米国の紛争を終結させるための外交努力について会談を行った。代表団は真昼に到着したが、この訪問は、トランプがイランを「時間稼ぎをしている」と非難し、テヘランは今や「代償を払わねばならない」と述べた直後のことだった。AFP通信は事情に詳しい外交官の言葉を引用し、カタールの交渉チームは米当局者との協議を経て、両国間に残された意見の相違を埋めるためにテヘランへ渡ったと報じている。
米国とイランの調停におけるパキスタンの役割についての情報にアクセスできるパキスタン政府高官の情報筋によると、パキスタンは中国とロシアの催促を受け、サウジやカタールに対し、それぞれの国内にある米軍基地の駐留承認を停止させるための交渉を進展させているという。これらの交渉は、サウジアラビアが「プロジェクト・フリーダム(自由作戦)」の最中に、イランを攻撃するための自国領空通過を米国に対して拒否した時期と重なっている。
合意は本当に19日に署名されるのだろうか? 私は依然として懐疑的である。その理由は単純で、怒り狂ったイスラエル当局者や、アメリカ・イスラエル公共事務委員会(AIPAC)に支配された米国の政治家たちから、ドナルド・トランプに対して凄まじい猛反発が浴びせられているからだ。しかし、私がこれを書いている15日の夜の時点では、ディールはまだ維持されているように見える。
なぜドナルド・トランプはMOUの本文を公開しないのだろうか? 2つの仮説が成り立つ。
イランと米国の間にまだ不一致の領域があり、現在も妥協点を模索して交渉中であるということ。
また、シオニストからの猛反発によって、19日にジュネーブで行われる署名式が頓挫することを恐れ、トランプが事前に詳細を明かしたくないということ。
いずれにせよ、外交のジェットコースターは今、フルスピードで疾走している。19日まで、荒れ狂うドライブになることは間違いない。(“The Straight of Hormuz is Open for Iranian Business… Oil is Moving and Iran is Getting Paid”, By Larry C. Johnson a former CIA officer and intelligence analyst, and former planner and advisor at the US State Department’s Office of Counter Terrorism, ‘SONAR 21’ , 16 June 2026)



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