5月中旬に米国のトランプ大統領が訪中し、習近平・中国国家主席と会談した。現在、米国・イスラエルとイランが戦火を交えている中東情勢以上にある意味で関心を集めたのが台湾問題だった。台湾問題の「解決」を自らの使命と自認する習近平国家主席自身が、会談において台湾問題をアップグレードさせたのは明らかだった。
会談に際して習近平国家主席は「誤った対応をすれば米中両国が衝突する可能性がある」という警告とも受け止められるメッセージを発した。ところが、会談後に二人がどのように話し合ったのか、台湾問題について具体的に何か合意に達したかどうかなどの情報発信は中国側から一切ない。むしろ活発な発信を展開したのが、トランプ大統領自身だった。
さらに、米国と台湾との間で長年の間守られてきた「約束」を反故にしかねない内容だったため、台湾の頼清徳・民進党政権は震え上がった。あたかもトランプ大統領が習近平国家主席に「洗脳されたのではないか」(台湾メディア)と疑わせるものだったからだ。
トランプ大統領がメディアに語った内容は、1998年にクリントン大統領が上海で江沢民国家主席に対して表明した「三つのノー((1)台湾の独立を支持しない、(2)台湾政府を承認しない、(3)台湾の国際機関への加盟を支援しない)」以来の、台湾にとって極めて不利な発言だったとの見方すらある。
インタビューから見えたトランプの認識
北京で行われたFOXニュースのブレット・ベイヤー記者によるトランプ大統領の単独会見で台湾をめぐるやりとりは以下のようなものだった。
・FOXニュース:台湾問題で対応を誤れば「米中両国間で衝突や対立が生じ、極めて大きな危険に陥ることになる」という中国の声明は脅しではなかったのか。
・トランプ大統領:いいえ、全く違う。彼らは単に、この場所(台湾)が独立することを望んでいないだけだ。もし彼ら(台湾)が過激な行動に出れば、強硬な対応を招き、悪影響を及ぼすことになると私は考えている。しかし、現実はそうはならない。我々は昨夜一晩中この問題を議論し、今や、私は台湾について深く理解していると思う。
・FOXニュース:この問題が首脳会談の中心だったと思うか?
・トランプ大統領:彼とはもう11年、12年の付き合いになる。彼にとって、台湾は常に最も重要な問題だ。今、あちら側(台湾)には独立を望んでいる人物がいる。これは非常に危険なことだ。彼らが独立を望むのは戦争を引き起こしたいからであり、しかも彼らはアメリカの後ろ盾があると思い込んでいる。私は現状が維持されることを望んでいる。
・FOXニュース:習近平国家主席との会談後、台湾の人々はより安全だと感じるべきでしょうか、それともより不安を感じるべきでしょうか?
・トランプ大統領:中立だ。
・FOXニュース:(台湾)政策に何か変更はありましたか?
・トランプ大統領:いいえ、何も変わっていない。誰かが独立へと向かい、その結果、我々が9500マイルも移動して戦争をしなければならないような事態は望まない。彼ら(台湾)には冷静になってほしい。中国にも冷静になってほしい。
・FOXニュース:あなたは台湾への数十億ドル規模の武器売却を承認するかどうか検討中です。この件は進められるのでしょうか?
・トランプ大統領:まだ承認していない。これから何が起こるか様子を見よう。承認するかもしれないし、しないかもしれない。我々は戦争を望んでいない。現状維持であれば、中国も受け入れるだろう。誰かが「アメリカが支持してくれるから、独立しよう」などと言うのは望まない。
・FOXニュース:つまり、習近平国家主席は、あなたが台湾への武器売却をまだ承認していないことを喜んでいるのでしょうか?
・トランプ大統領:私は現在、この件を保留にしている。それは中国次第です。率直に言って、これは我々にとって非常に良い交渉材料だ。膨大な量の武器で120億ドル(*注140億ドル)の価値がある。ご存知のように、実力の比較で見れば、中国は非常に強力な大国だ。あれ(台湾)はただの小さな島に過ぎない。考えてみてほしい。(中台の)距離はわずか59マイルです。一方、我々は9500マイル離れている。これは確かに少し厄介な問題だ。
変更させられた「ナラティブ」
これらのトランプ発言を読む限り、中台の緊張をもたらしているのは台湾に主な責任があり、台湾の独立派が騒動を起こしているためで、台湾への武器売却については米中間のディールに使い、その履行については留保している、というトランプ大統領の考え方や認識がわかる。
トランプ大統領は中国を離陸後、高市早苗首相と電話会談を行った。その中身は明らかになっていない。高市首相に対して、トランプ大統領が習近平国家主席の主張に沿った形で釘を刺した可能性もある。
台湾にとって衝撃的だったのは「今、あちら側(台湾)には独立を望んでいる人物がいる。これは非常に危険なことです。いったん独立してしまえば、ご存知の通り、彼らが独立を望むのは戦争を引き起こしたいからであり、しかも彼らはアメリカの後ろ盾があると思い込んでいるのです」と、民進党を名指しこそしないが、トラブルメーカーに認定していると暗示した発言があることだ。
国際社会の「ナラティブ」の戦いでは、誰がトラブルメーカーであるのかの認定は非常に重要である。これまで台湾は中国がトラブルメーカーであるとの国際宣伝に相当程度成功し、前バイデン政権も協力してきた。
しかし、今回トランプの認識は「問題は台湾にある」という中国の主張を受け入れた形になっている。
これに対して、台湾は相当に緊張したはずだ。頼清徳総統自らがFacebookで「台湾は地域の安定の擁護者であり、中国が地域を不安定化させている根源にある。中華民国の現状を守るので、いわゆる台湾独立の問題は存在しない」と否定するコメントを出さざるを得なかった。台湾の国名は中華民国ですでに独立した主権国家であるゆえに独立問題はない、というのが民進党の一貫した主張である。
武器売却はしばらく棚上げか
またトランプ大統領は「(台湾)政策に変更はない」と言いながら、武器売却については微妙な言い回しに終始し、売却をしばらく「留保する」と述べている。もともと米国は台湾への武器売却について、いわゆる「六つの保証(対台武器売却停止時期の設定に同意せず、対台武器売却について中国と協議せず、中台の仲介はせず、台湾関係法の修正をせず、台湾の主権に関する米国の立場を修正せず、中国との交渉に入るよう台湾に圧力をかけず)」で、事前協議を行わないと言明していた。
ところが、トランプ大統領はこの件についても習近平国家主席と話し合いをしたと認め、「これは我々にとって非常に良い交渉材料です」と述べている。現在、米国政府は、議会が認めた140億ドルの台湾への武器売却を承認するかどうかを検討している。早急な履行を台湾側は求めていたが、トランプ大統領の「留保」の言葉を見る限り、しばらくは棚上げされる可能性がある。
彼の発言は、中国との事前協議を行い、中台の仲介をするという何重もの違反事項が出てきてしまう。「六つの保証」に法的拘束力はないが、1978年の米台断交以来守られてきた約束でもあり、米台間の信頼に深く関わる問題だ。
一方、トランプ大統領は、台湾側とも話し合うと述べた。もし頼清徳総統とトランプ大統領が直接対話をするなら、それはそれで中国にとって信じ難い「暴挙」になるだろう。
トランプ発言は「公式化」されるか
トランプ大統領が言葉通りの行動を見せるかどうかはわからないが、従来の米国の立場をトランプ大統領は相当に揺るがしたことが明らかになった。その代償として米国が何を得るのか、経済か、イランか、現時点では定かではない。だが、ディールのカードにされかねない台湾の人心は相当に乱れ、対米不信も生みかねない。
もちろん、トランプ大統領の発言は、メディアの取材に応じた内容であり、首脳会談での発言や共同声明ではない。米国政府が会談後に発表したファクトシートでも台湾問題についての記述はない。
9月に習近平国家主席が訪米するが、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、主要20カ国・地域(G20)などを含めた米中の首脳会談のチャンスがあと3回ある。中国にとって今回は「洗脳」と呼ぶかどうかは別に、トランプ大統領の台湾理解を操作する「認知戦」に一定の効果をおさめたと考えただろう。
今後どこかの段階で、トランプ発言をどうやって「公式化」するか、中国は虎視眈々と狙っているはずである。




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