米国、ロシアに新たな救いの手を差し伸べる:欧州へのガス売却拡大を容認へ ニューヨーク・タイムズ 2026年10月17日

アントン・トロイアノフスキー記者
ジム・タンカースリー記者

トランプ政権はウクライナとの平和協定の一環として
このアイデアを提示しているが、欧州は警戒しており、
批判派はロシアを強化することになると述べている。

ウクライナにおける平和を確保するためのトランプ政権の広範な計画における主要な要素は、長年にわたる米国のエネルギー政策を根底から覆すような提案である。

米国側の提案は、欧州がロシア産ガスの購入拡大を再開すべきということだ。これはモスクワにとって経済的な恵みとなり、同地域における影響力を取り戻させる動きとなる。

交渉に詳しい人物らによると、トランプ大統領の平和特使であるジャレッド・クシュナー氏とスティーブ・ウィトコフ氏は、先月キーウでヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と行った会談を含め、ウクライナと欧州の当局者との協議の中でこのアイデアを提起した。ロシアにウクライナでの戦争を終わらせるよう誘い込む手助けとして、ウクライナがかつてロシアの天然ガスを欧州へ運んでいたパイプラインを再開させることを検討すべきだと、米国側は主張しているとのこと。

協議に参加した欧州の当局者らは、ロシア産ガスからの脱却を目指してワシントンの支持のもとで何年も続けてきた欧州連合(EU)の取り組みを台無しにするこのアイデアに縮み上がったという。しかし、トランプ政権の当局者らは、ウクライナに流れ込むことになる収入や、安価なエネルギーを求める欧州の有権者の不回避な要求を踏まえ、ロシアのガス輸出を平和定着に向けた潜在的な構成要素と見なしていると、機密外交について匿名を条件に語った関係者は述べた。

この不一致は、ロシアによるウクライナ侵攻を終わらせようとするトランプ氏の新たな外交的努力の異例な、そして批判派によれば決定的に欠陥のある、性質を際立たせている。トランプ政権は、ウラジーミル・プーチン大統領に圧力をかけたり、ウクライナの戦争努力を強化しようとしたりするのではなく、ロシアに対する経済的インセンティブ見返りを探ることに相当な時間を費やし、欧州やウクライナとの話し合いの中でそれらを持ち出している。

米国とロシアの当局者は昨年から、潜在的なビジネス取引について協議を続けてきたが、見通しでは、プーチン氏が自らの核心的な要求から一歩でも譲るよう促すまでには至っていないようだ。

そして、欧州とウクライナの指導者がロシア産ガスへの依存回帰にどれほど強く反対しているかを考えれば、この提案は最終的に戦争を終わらせようとするトランプ政権の努力をさらに複雑化させる結果となるかもしれない。

ホワイトハウスは声明の中で、戦争が「欧州全域でエネルギー価格を押し上げ、ロシアとウクライナの双方に重大な経済的困窮をもたらしている」と述べた。

また、「米国は、最終的な妥結の一環としてロシアとウクライナの双方に対する経済的インセンティブを含む包括的な平和提案について、ウクライナと欧州のパートナーと緊密に連携してきた」と述べている。「我々の目的は、単に戦闘を終わらせることではなく、地域全体における永続的な平和、経済回復、および更なる安定のための条件を創出することにある」とも付け加えた。

トランプ氏は16日、議会を通過した新たな対ロ制裁を免除した。これはロシア産軽油に対する制裁を解除した1週間後のことであり、ロシアへの経済的圧力を緩和する彼のこれまでで最も重要なステップとなった。プーチン大統領の経済特使であるキリル・ドミトリエフ氏は、軽油取引について、クシュナー氏やウィトコフ氏との協議から生じえる事態の「始まりに過ぎない」と描写した。

ドミトリエフ氏は16日、モスクワでのエネルギー会議で「近い将来、我々はいくつかの重要なイニシアチブを発表することになると考えている」としながら、「結局、氷はついに解けたのだ」と述べた。

ドミトリエフ氏は、ロシアと米国が、ロシアの原子力発電で稼働するデータセンターを含む広範なプロジェクトについて議論していると述べた。ロシアのエネルギー大手ルークオイル(Lukoil)の国際資産を、米政府を含む投資家グループへ売却することも交渉の一部であると、ニューヨーク・タイムズは今月報じている。

しかし、クシュナー氏とウィトコフ氏が最終的な平和パッケージの潜在的な一部と見なしている、欧州へのロシア産ガス輸出の復活という提案は、この計画の中で最も大胆で分裂を引き起こす部分かもしれない。米国企業にとっては、欧州における米国産液化天然ガス(LNG)の需要を減少させる可能性がある。欧州政府にとっては、ウクライナ支援の停止とロシアとの関係再開をすでに促しているポピュリスト政治家らを勢いづかせる可能性がある。

「我々はドイツの消費者とドイツの事業者を救済するために、ロシアからの天然ガスと原油を望んでいる」と、極右「ドイツのための選択肢(AfD)」のリーダーであるアリス・ヴァイデル氏は今週、ベルリンの連邦議会で述べた。ワシントンとモスクワが「相互の利益」のために交渉を進める中で、対ロ制裁は「我々自身の経済を破滅させている」と彼女は語った。

トランプ氏がウクライナへの支援を撤回し、プーチン氏と取引を行っているとしてここ数日彼を攻撃してきたゼレンスキー氏は、今週のフィナンシャルタイムズとのインタビューでこの交渉に言及した。

彼は「問題は、次の取引がいつになるかということだ」としながら、「おそらくガスだろう。間違いなくガスになるはずだ」と語った。

ロシア産エネルギーの回避

ウクライナは2025年1月にロシア産ガスの輸送を停止し、年間約10億ドルの輸送手数料を失った。欧州連合は来年までにすべてのロシア産ガス輸入を終了することを誓約している。昨年、EUのガス輸入の13%がロシアからのものであり、2021年の45%から減少していた。

しかし、ホワイトハウスがウクライナでの戦争を終わらせるための新たなアイデアを模索し、トランプ氏が中間選挙を前に高いエネルギー価格を痛感する中、彼の政権はロシアの化石燃料の輸出規制を緩和する取引をますます検討するようになっている。

関与した人々によると、ロシアによる欧州へのガス輸出再開を可能にすることは、クシュナー氏とウィトコフ氏によって議論されている長期的な計画であるという。両特使らは、こうした輸出を、将来のロシアとNATOの関係に関する交渉、ウクライナへの安全保障、領土管理に関する合意を含むより広範な妥結における経済的インセンティブの中に位置づけている。

協議に詳しい人物らによると、欧州の一部とウクライナの当局者は、米国がロシアのガス輸出における利権を求め、米国企業や政府に利益の分け前を与えると予想している。

米国人投資家のスティーブン・P・リンチ氏は、バイデン政権下からドイツへの破壊されたロシア海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の買収を試みてきた。彼は、同パイプラインを米国が統制することは、遅かれ早かれそこを通るロシアのガスの流れが回復した際、米国の利益と欧州の安全保障に資することになると主張した。

リンチ氏は、自身が現在ノルドストリームのいかなる交渉にも参加しておらず、関与するための財務省ライセンスも保持していないと述べた。しかし、協議に詳しい人物らによると、ノルドストリームは米ロ間の議論の中でも浮上しているという。ロイター通信は今月、米ロの当局者がノルドストリームに米国人投資家を引き入れることについて議論したと報じた。

ホワイトハウスは声明の中で、ノルドストリームが「最近の議論の主題」にはなっていないと述べた。さらに「それに関わるいかなる取り決めも、包括的な平和協定の一環として欧州のパートナーとの密接な調整を必要とする」と付け加えた。

協議に詳しい人物の一人は、トランプ政権が海底パイプラインの再開を、平和協定が結ばれた場合、容易に解決できる問題と見なしていると語った。彼は、欧州の当局者は公にはロシア産ガスを放棄したかもしれないが、米国の有権者と同様、欧州の有権者も最終的にはより安価なエネルギーを求めるようになるだろうと述べた。

これはクレムリンの立場に同調する意見である。プーチン大統領の報道官であるドミトリー・S・ペスコフ氏は、ガス交渉に関する質問への回答としてのボイスメッセージで次のように語った。「どのような形であれエネルギー協力を再開することは我々の利益になるが、現時点では欧州人自体におり大きな利益になるかもしれない」。

ドイツの反対

ドイツは、プーチン氏による2022年の侵攻前にはロシア産ガスの最大の買い手であったにもかかわらず、ロシアのガスパイプラインの再開に反対する最前線に立ってきた。先週フロリダでウィトコフ氏とクシュナー氏が催したウクライナ協議でこのアイデアが再び持ち上がった際、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相の安全保障最高顧問であるギュンター・ザウター氏は特に強い反対を表明したと、会合に詳しい2人の人物が語った。

ドイツ側の立場に詳しい欧州の当局者は今週、ドイツ政府は仲介者を通じて売却されるロシア産ガスをロシアから直接届くガスと区別できないもの、したがって、平和交渉の一環としては対象外と見なしていると語った。

ドイツのエネルギーコストは2022年以降急騰しており、ドイツの現職と元職の当局者は、ロシア産ガスを再び購入すればそれらの価格が下がることを認めている。しかし彼らは、そうすることは将来的にモスクワによるガスの遮断に対して脆弱になることを含め、安全保障の観点からドイツと欧州に極めて重い代償を払わせることになると述べている。

「欧州、特にドイツは二度とロシア産ガスに依存すべきではない」と、開戦時にドイツの経済相を務め、ロシア産ガスからの脱却を指揮したロベルト・ハーベック氏はインタビューで語った。「なぜなら、我々はロシアがいかに信頼できないかを目撃したからだ」と付け加えた。

しかし、ドイツの指導者らは戦争をめぐり、そして特にガス輸入をめぐり、国内で圧力に晒されている。30%近い支持率で全国世論調査をリードしている「ドイツのための選択肢(AfD)」は、インフレと戦いドイツ経済を鼓舞する手段として、ロシア産ガス輸入の再開を掲げている。

今月、AfDが1945年以来ドイツの州議会で初となる極右の議長を選出したザクセン・アンハルト州では、議員らが今週、連邦政府に対し対ロ制裁の解除とウクライナへの軍事援助の停止を求める、ほぼ象徴的な決議案を通過させた。AfDの代表らは、元左派政治家によって結成されたロシアに好意的な党派「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」の議員らとともにこの法案に賛成票を投じた。

欧州の指導者らは、自国のポピュリスト政党、トランプ氏、そしてクレムリンから発せられる同様のメッセージについて懸念を深めている。メルツやその他の欧州の指導者らは、トランプによるロシア産軽油への制裁解除を公然と批判し、この動きがモスクワに対する西側の経済的圧力キャンペーンを打ち砕いたと述べた。

元経済相のハーベック氏は、ドイツがロシアからの比較的小規模なガス輸入の再開を受け入れて生きていく可能性はあると述べた。しかし同氏は、欧州が今後数年間、自前のエネルギーインフラを所有し運用することが決定的に重要であり、米国の仲介者がロシア産ガスを輸送したとしても、安全保障上の観点からは、何の違いももたらさないと語った。

彼は、「昔であれば、米国企業が所有権の一部になってくれれば嬉しかっただろう」としながら、「しかし今は恐ろしい。トランプ氏がウクライナ人よりもウラジーミル・プーチンに対して多くの同情を抱いているように見受けられるからだ」と述べた。(“U.S. Floats Another Lifeline to Russia: Allowing It to Sell More Gas to Europe”, By Anton Troianovski and Jim Tankersley, The New York Times, October 17, 2026)

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