イランにおける「チェックメイト(敗北)」 米月刊誌『アトランティック』 2026年5月10日

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所・上級研究員

ワシントンは、この戦争に敗北したことで生じる結果を覆すことも、
制御することもできない

アメリカ合衆国が紛争において「完全な敗北」を喫した時、すなわち、その戦略的損失を修復することも無視することもできないほどの決定的な後退を経験した時のことを思い返すのは難しい。第二次世界大戦の最初の数ヶ月間に真珠湾、フィリピン、そして西太平洋全域で被った壊滅的な損失は、最終的には覆された。ベトナムやアフガニスタンでの敗北は多大な犠牲を伴ったが、それらは世界的な競争の主要な舞台からは遠かったため、世界のなかでのアメリカの全体的な地位に永続的なダメージを与えることはなかった。イラクでの初期の失敗は、戦略の転換によって緩和され、最終的にイラクを比較的安定させ、近隣諸国への脅威をなくし、地域におけるアメリカの優位性を維持した。

現在のイランとの対立における敗北は、これらとは全く異なる性格を持つことになるだろう。それは修復することも、無視することもできない。以前の状態に戻ることはなく、受けた損害を取り消したり克服したりするような、アメリカの最終的な勝利も存在しない。ホルムズ海峡は、かつてのように「開放」されることはない。

海峡を支配下に置くことで、イランは地域における主要なプレーヤーとして、そして世界における主要なプレーヤーの一人として浮上する。イランの同盟国としての中国とロシアの役割は強化され、アメリカの役割は大幅に縮小する。

戦争の支持者たちが繰り返し主張してきたような「アメリカの勇猛さ」を示すどころか、この紛争は、アメリカが信頼に足らず、自ら始めたことを完遂する能力もないことを露呈させてしまった。友人や敵がアメリカの失敗に適応していくにつれ、それは世界中で連鎖反応を引き起こすことになるだろう。

トランプ大統領は、誰が「カード」を握っているかについて話すのを好むが、彼にプレイすべき良いカードが残っているかどうかは定かではない。アメリカとイスラエルは37日間にわたって壊滅的な効果を伴う攻撃をイランに浴びせ、指導部の多くを殺害し、軍の大部分を破壊したが、それでも体制を崩壊させることも、わずかな譲歩を引き出すこともできなかった。

現在、トランプ政権は、大規模な武力行使が成し遂げられなかったことを、イランの港湾封鎖によって達成しようと期待している。もちろんその可能性はあるが、5週間にわたる容赦ない軍事攻撃によっても屈服しなかった政権が、経済的圧力だけで折れるとは考えにくい。また、この政権は自国民の怒りも恐れていない。イラン研究者のスザンヌ・マロニーが最近指摘したように、「1月の抗議活動を沈静化させるために自国民を虐殺した政権は、今、彼らに経済的困難を強いる準備が十分にできている」のである。

したがって、戦争の支持者の一部は軍事攻撃の再開を求めているが、彼らは、37日間の爆撃で達成できなかったことを、もう一度爆撃を行うことでどう達成できるのかを説明できていない。さらなる軍事行動は必然的に、イランによる近隣の湾岸諸国への報復を招くだろう。戦争の推進者たちは、それに対しても答えを持っていない。

トランプがイランへの攻撃を停止したのは、飽きたからではなく、イランが地域の重要な石油・ガス施設を攻撃していたからだ。転換点は3月18日、イスラエルがイランのサウスパルス・ガス田を爆撃し、イランがその報復として世界最大の天然ガス輸出プラントであるカタールのラス・ラファン工業都市を攻撃した時に訪れた。これにより、修復に数年を要するほどの生産能力への被害が生じた。トランプはこれに対し、イランのエネルギー施設へのさらなる攻撃の一時停止を宣言し、その後、イラン側が一点の譲歩もしていないにもかかわらず、停戦を宣言した。

1ヶ月前にトランプを後退させたリスク計算は、今も変わっていない。たとえトランプが、さらなる爆撃によって「イランの文明を破壊する」という脅しを実行したとしても、イランは体制が倒れる前に(倒れると仮定しての話だが)、多くのミサイルやドローンを発射することができる。わずか数回の攻撃が成功するだけで、地域の石油・ガス・インフラを数十年とは言わないまでも数年間にわたって麻痺させ、世界、そしてアメリカを長期的な経済危機に陥らせる可能性がある。たとえトランプが、自らの撤退を隠すための「強硬姿勢」として、出口戦略の一環でイランを爆撃したいと考えたとしても、この大惨事のリスクを冒さずには実行できないのである。

これが「チェックメイト(王手詰みの敗北)」でないとしても、それに近い状態だ。報道によれば、トランプは最近、米インテリジェンス・コミュニティー(情報機関)に対し、単に勝利を宣言して立ち去った場合の結果を評価するよう求めたという。

彼を責めることはできない。体制崩壊を期待することは大した戦略ではない。特にその政権が、繰り返される軍事的・経済的打撃をすでに生き延びている場合はなおさらだ。体制は明日崩壊するかもしれないし、6ヶ月後かもしれないし、全く崩壊しないかもしれない。石油価格が1バレル150ドル、あるいは200ドルへと上昇し、インフレが進み、世界的な食料やその他の商品不足が始まる中、トランプにはそれほど長く待てる時間はない。彼はより迅速な解決を必要としている。

しかし、アメリカの実質的な降伏以外のいかなる解決策も、トランプがこれまでのところ冒そうとしなかった巨大なリスクを伴っている。トランプに「仕事を完遂せよ」と軽々しく求める人々は、そのコストをほとんど認めていない。

アメリカが、現在のイラン政権を排除するために本格的な地上戦と海戦に従事し、新しい政府が定着するまでイランを占領する覚悟がない限り、紛争状態の海峡を通過するタンカーを護送する軍艦を失うリスクを冒す覚悟がない限り、そして、イランの報復によって生じるであろう地域の生産能力への壊滅的かつ長期的なダメージを受け入れる覚悟がない限り、今立ち去ることが「最悪の中の最善の選択」に見えるかもしれない。

政治的な問題として、トランプは、失敗に終わる可能性のある、より大規模で長く、よりコストのかかる戦争を生き延びるよりも、敗北を乗り切る方がまだチャンスがあると感じているのかもしれない。

したがって、アメリカ合衆国の敗北は、単に可能性があるだけでなく、その可能性が高いのである。敗北とはどのようなものか、以下に記す。

イランは引き続きホルムズ海峡を支配下に置く。危機が終われば、何らかの形で海峡が再開されるという一般的な仮定には根拠がない。イランには以前の状態に戻る利点がない。

テヘランの強硬派と穏健派の分裂を語る者もいるが、たとえ穏健派であっても、どんなに良い条件の合意が得られると考えたとしても、イランが海峡を手放すわけにはいかないことは理解しているはずだ。

第一に、トランプとの合意がどれほど信頼できるだろうか? 彼は交渉の最中にイランの指導部殺害を承認することで、日本の真珠湾奇襲攻撃を再現したことを自慢せんばかりだった。イラン人は、トランプが合意を結んだ数ヶ月後に再び攻撃を仕掛けてこないと確信することはできない。また、彼らはイスラエルが再び攻撃してくる可能性があることも知っている。イスラエルは、自国の利益が脅かされていると感じた時、行動を制約されているとは決して感じないからだ。

そして、イスラエルの利益は脅かされることになる。多くのイラン専門家が指摘しているように、テヘランの政権は現在、核能力を保持しているだけでなく、さらに効果的な武器、すなわち「世界のエネルギー市場を人質に取る能力」を手に入れたことで、開戦前よりもはるかに強い状態で危機から脱しようとしている。

イラン人が海峡の「再開」について語るとき、それは依然として海峡を自国の支配下に置くことを意味している。イランは通過料を要求できるだけでなく、通行を自国と良好な関係にある国々に限定することもできるようになる。もしある国がイランの統治者の気に入らない行動をとれば、その国の貨物船の海峡出入りの流れを遅らせる、あるいは遅らせると脅すだけで、罰を与えることができるようになるのである。

海峡を閉鎖し、あるいは船舶の流れを制御する力は、イランの核計画という理論上の力よりも大きく、より即効性がある。このテコ (レバレッジ)により、テヘランの指導者たちは各国に対し、制裁を解除して関係を正常化するか、さもなければ不利益を被るかを強要することができるようになる。

イランが豊かになり、軍備を再編し、将来の核保有の選択肢を保持する中で、イスラエルはかつてないほど孤立することになるだろう。イスラエルは、イランの代理勢力を追い込むことさえできなくなるかもしれない。イランが非常に多くの国のエネルギー供給に対して影響力を行使する世界では、イスラエルはレバノンやガザ、あるいはその他の場所でテヘランを刺激しないよう、国際社会から多大な圧力を受ける可能性があるからだ。

海峡における新しい現状は、地域的および世界的な相対的パワーと影響力の大幅なシフトをもたらすだろう。この地域において、アメリカは自らが「紙の虎」であることを証明してしまい、湾岸諸国やその他のアラブ諸国にイランへの適応を強いることになる。

イラン研究者のレエル・マーク・ゲレヒトとレイ・タケイが最近書いたように「湾岸アラブ諸国の経済はアメリカの覇権という傘の下で築かれた。それを取り除き、それに付随する航行の自由もなくなれば、湾岸諸国は必然的にテヘランに泣きつくことになる」だろう。そうなるのは湾岸諸国だけではない。湾岸からのエネルギーに依存しているすべての国が、イランと独自の取り決めを結ばなければならなくなる。彼らに他にどんな選択肢があるだろうか?

強大な海軍を持つアメリカが海峡を開放できない、あるいは開放しようとしないのであれば、アメリカの能力のほんの一部しか持たないいかなる連合軍も、海峡を開放することはできない。停戦後に海峡を監視するという英仏のイニシアチブは、ある種の冗談のようなものだ。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、この「連合」が海峡の平和な条件下でのみ運営されることを明言している。つまり、護衛を必要としない場合に限り、船を護衛するというわけだ。しかし、イランが支配している以上、海峡が再び安全になることは当分の間ないだろう。中国はおそらくテヘランに対して一定の影響力を持っているが、中国一国で海峡を強制的に開放することはできない。

この変容の一つの影響は、大国間による海軍拡張競争の拡大かもしれない。かつて、中国を含む世界のほとんどの国は、こうした緊急事態の防止と対処の両方をアメリカに頼っていた。今や、ペルシャ湾の資源へのアクセスに依存している欧州やアジアの諸国は、自国の経済的・政治的安定に不可欠なエネルギー供給の喪失に対して無力である。秩序と予見可能性が崩壊し、「自国第一主義」がまかり通る世界で影響力を行使する手段として、独自の艦隊を構築し始めるまで、彼らはどれだけの期間これに耐えられるだろうか。

湾岸におけるアメリカの敗北は、より広範な世界的影響も及ぼすだろう。二流国とのわずか数週間の戦争によって、アメリカの兵器在庫が危険なほど低いレベルまで減少し、迅速な救済策も見当たらないことを、全世界が目の当たりにしている。これが、将来の大規模紛争に対するアメリカの準備態勢について投げかける疑問は、習近平による台湾攻撃や、ウラジーミル・プーチンによる欧州へのさらなる侵略を促すかもしれないし、促さないかもしれない。しかし、少なくとも東アジアや欧州のアメリカの同盟国は、将来の紛争の際のアメリカの粘り強さについて疑念を抱かざるを得ないだろう。

「ポスト・アメリカ」の世界へのグローバルな適応が加速している。かつて湾岸で支配的だったアメリカの地位は、これから失われる多くのものの最初の犠牲者に過ぎない。(“Checkmate in Iran”, ‘Washington can’t reverse or control the consequences of losing this war’, By Robert Kagan a senior fellow at the Brookings Institution, The Atlantic, May 10, 2026)

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